庭木の倒木は誰の責任か|手入れをやめた木が倒れたとき
庭木の倒木で隣家や通行人に被害が出たとき、責任は誰にあるのか。民法717条は何を要件にしているのか。空き家の庭木に空家法がどう及ぶのか。条文に書いてあることと、条文からは決まらないことを分けて整理しました。
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結論から書きます。条文が責任の要件にしているのは「瑕疵」であって、「手入れをやめたこと」ではありません。 そして、瑕疵があったかどうかは個別に判断されます。以下では、条文に書いてあることだけを取り上げ、何が要件とされているか、そこに何が書かれていないかを分けて見ていきます。
この記事の限界
この記事の根拠は、民法や空家法などの条文と国の基本指針だけです。当サイトは法律の専門家ではなく、判例・裁判例を一件も確認していません。どういう場合に責任が認められるかは書けません。実際に被害が起きた場合や、起きそうな状況にある場合は、弁護士等にご相談ください。
民法717条は何を定めているか
条文の見出しは「土地の工作物等の占有者及び所有者の責任」です。(出典:デジタル庁(e-Gov法令検索)「民法(明治二十九年法律第八十九号)第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)」/確認日 2026-09-29)
- 1項 土地の工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害が生じたときは、その工作物の占有者が被害者に対して損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
- 2項 1項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
- 3項 損害の原因について他に責任を負う者があるときは、占有者または所有者はその者に求償権を行使できる。
2項があるので、庭木は建物や塀と同じ717条の枠組みで扱われます。ただし要件の言葉が書き分けられていて、建物等では「設置又は保存」の瑕疵、竹木では「栽植又は支持」の瑕疵です。
条文の構造で気づくこと
1項ただし書は、占有者には「必要な注意をした」という免責の定めがあるのに対し、所有者側には同じ定めが置かれていません。読み取れるのは、条文の書き方としてそうなっているところまでです。所有者が同じように免責されるのかは、条文からは決まりません。
「瑕疵」が何を指すかは、条文に書かれていない
ここが一番大事な点です。条文は「栽植又は支持に瑕疵がある場合」としか書いていません。
- 何年手入れをしなければ瑕疵になるのか → 書かれていません
- 枯れていることは瑕疵か → 書かれていません
- 傾いていることは瑕疵か → 書かれていません
- 台風や大雪が加わったときどうなるか → 条文に不可抗力の規定はありません
(出典:デジタル庁(e-Gov法令検索)「民法(明治二十九年法律第八十九号)第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)」/確認日 2026-09-29) これらはいずれも個別の事実認定で決まる事柄です。条文の文言から言えるのはここまでです。当サイトは裁判例を確認していないため、ここから先は書きません。
誰が「占有者」で、誰が「所有者」か
1項は占有者を先に挙げ、占有者が必要な注意をしたときに所有者が賠償する、という順で書かれています。ところが実家の庭木では、この切り分け自体が簡単ではありません。
- 親が所有し、子が管理しているとき
- 空き家の管理を業者に委託しているとき
- 家を賃貸に出しているとき
誰が占有者になるのかは、条文からは判断できません。(出典:デジタル庁(e-Gov法令検索)「民法(明治二十九年法律第八十九号)第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)」/確認日 2026-09-29) 相続の前後で所有者が変わる場面もあります。遺産分割が済むまでは法定相続分の割合で相続人全員の共有になるとされ、共有の庭木に手を入れるときに必要な合意の形も民法251条・252条で分かれています(相続した実家の庭で、名義を確かめる)。ここは実際の状況に即して確認が要るところです。
空き家の庭木には、空家法も関係します
空家法2条1項の「空家等」は、居住その他の使用がなされていないことが常態である建築物とその敷地を指します。そして敷地には「立木その他の土地に定着する物を含む」と条文に明記されています。(出典:デジタル庁(e-Gov法令検索)「空家等対策の推進に関する特別措置法(平成二十六年法律第百二十七号)第2条・第5条・第13条」/確認日 2026-09-29)
つまり空き家の庭木は、この法律の対象範囲に入ります。
住んでいる家は対象外と読めます
「空家等」は居住その他の使用がなされていないことが常態である建築物が対象です。人が住んでいる実家の庭木は、この法律の対象と読めません。ただし「常態」の判断基準は、この条文だけでは確定できません。
特定空家等と管理不全空家等
2条2項の「特定空家等」は、次の4つで定義されています。(出典:デジタル庁(e-Gov法令検索)「空家等対策の推進に関する特別措置法(平成二十六年法律第百二十七号)第2条・第5条・第13条」/確認日 2026-09-29)
- そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
13条1項の「管理不全空家等」は、適切な管理が行われていないことにより、そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態にあると認められる空家等です。市町村長は、その所有者等に必要な措置をとるよう指導できます。13条2項は、指導してもなお改善されず特定空家等に該当するおそれが大きいと認めるときの勧告を定めており、条文には「修繕、立木竹の伐採その他」という言葉が入っています。(出典:デジタル庁(e-Gov法令検索)「空家等対策の推進に関する特別措置法(平成二十六年法律第百二十七号)第2条・第5条・第13条」/確認日 2026-09-29)
管理不全空家等の枠組みは、2023年(令和5年)の改正で設けられたものです。(出典:国土交通省 住宅局「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和5年法律第50号)について」/確認日 2026-09-29)
市町村ができること/できないこと
管理不全空家等に対して法が定めているのは指導と勧告までです。命令や代執行の規定はありません。勧告の条文にある「立木竹の伐採」は所有者等がとるべき措置であって、市町村が代わりに切るという意味ではありません。 なお勧告は税の側にもつながっており、勧告がされた管理不全空家等の敷地は地方税法349条の3の2第1項で住宅用地から除かれます(勧告を受けたときに税の特例が外れる仕組み)。
国の指針が挙げている「点検する事象」
空家等に関する基本指針は、所有者等が行うべき管理の内容として、保安上危険の防止(倒壊・落下・飛散の防止)と、生活環境の保全(立木等による破損・通行障害等の防止)を項目別に示しています。立木については27〜29ページに記載があります。(出典:総務省・国土交通省(告示)「空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針(平成27年総務省・国土交通省告示第1号)」/確認日 2026-09-29)
ここも数値の定めではありません
挙がっているのは点検対象となる事象と考えられる対応であって、義務の内容や頻度を数値で定めたものではありません。「定期的に」とあるだけで、何か月ごととは書かれていません。またこの指針に即した管理をしていないことが、直ちに管理不全空家等に該当することを意味するわけでもありません。
隣の木がこちらに越境しているとき
こちらが被害を受ける側の場合は、別の条文の話になります。民法233条は越境した枝と根の扱いを定めており、2023年4月1日の改正で、条件を満たせば枝を自分で切り取れる場合が設けられました。手順は隣からはみ出した枝を自分で切ってよいかにまとめています。
ただし233条が扱っているのは境界線を越えた「枝」と「根」です。幹ごと倒れそうな木を、隣地の側が予防的に伐採できるかは条文に書かれていません。
何を確認しておくか
業者に確認したいこと
- 木の所有者は誰か。土地の所有者と同じか
- いま誰がその土地を管理しているか(占有者にあたりうる人)
- 建物に人が住んでいるか。住んでいなければ、それが常態になっているか
- 幹や根元に、傾き・枯れ・空洞などの目に見える変化がないか
- 倒れた場合に届く範囲に、隣家・道路・電線・人の通り道があるか
- 市区町村から指導や勧告の通知が来ていないか
条文には答えが書かれていないこと
弁護士や市区町村の窓口に確かめる項目
- どういう状態が「栽植又は支持の瑕疵」に当たるか
- 何年放置すれば瑕疵になるか
- 台風・大雪・地震が加わったときに免責されるか
- 実家の庭木について、誰が占有者で誰が所有者になるか
- 「居住その他の使用がなされていないことが常態」の判断基準
- 幹ごと倒れそうな隣の木を、こちら側が予防的に伐採できるか
いずれも条文には書かれておらず、判例・裁判例も今回は確認していません。確定した基準を示す一次資料は見つかりませんでした。実際に判断が必要になったときは、庭木の状態と現地の状況を伝えて、弁護士や市区町村の窓口に確認してください。
このあと、どこから読むか
遠方の空き家の庭を誰に頼むかは遠方の空き家の草刈り・庭木管理を依頼する前の確認事項に、帰省のたびに手が回らない実家の庭については実家の庭の管理を続けるか、減らすかに書いています。切ると決めたあとの費用と段取りは庭木の伐採費用と追加料金を確認するポイントをご覧ください。
よくある質問
庭木が倒れて隣の家を壊したら、必ず賠償することになりますか
手入れをやめたこと自体が「瑕疵」になりますか
台風で倒れた場合はどうなりますか
空き家の庭木は空家法の対象になりますか
市町村は空き家の庭木を切ってくれますか
確認した情報源
制度や料金は地域と時期で変わります。掲載しているのは確認日時点の内容です。実際の手続きは、 該当する自治体・事業者の最新の案内で確認してください。
- デジタル庁(e-Gov法令検索)「民法(明治二十九年法律第八十九号)第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)」
1項は、土地の工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害が生じたとき、その工作物の占有者が賠償責任を負い、ただし占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは所有者が賠償しなければならないと定める。2項は1項を「竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合」に準用する。3項は他に責任を負う者があるときの求償権を定める。
適用範囲:全国。2026-09-29時点で施行済みの版で確認。/確認日 2026-09-29
注意:条文が責任の要件としているのは「栽植又は支持の瑕疵」であって、「手入れをやめたこと」が直ちに瑕疵に当たるとは書かれていない。瑕疵の有無・因果関係・損害額はいずれも個別の事実認定で、この条文だけを根拠に「倒木すれば必ず賠償責任を負う」とは書けない。判例・裁判例は今回一件も確認していない。台風など自然力が加わった場合の扱いも条文にない。占有者と所有者が別人のときに誰が占有者になるかも条文からは判断できない。
- デジタル庁(e-Gov法令検索)「空家等対策の推進に関する特別措置法(平成二十六年法律第百二十七号)第2条・第5条・第13条」
2条1項の「空家等」は、居住その他の使用がなされていないことが常態である建築物とその敷地を指し、敷地には「立木その他の土地に定着する物を含む」と明記されている。2条2項の「特定空家等」は、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態など4つで定義される。5条は所有者等の適切な管理の努力義務。13条1項は「管理不全空家等」の定義と市町村長の指導、2項は勧告を定め、条文に「立木竹の伐採」という語がある。
適用範囲:全国。現に施行されている版(2026年9月3日施行の改正後)で確認。条番号はこの版のもの。/確認日 2026-09-29
注意:「空家等」は居住その他の使用がなされていないことが常態である建築物が対象なので、人が住んでいる実家の庭木はこの法律の対象と読めない。ただし「常態」の判断基準はこの条文だけでは確定できない。管理不全空家等に対して市町村長ができるのは指導と勧告までで、命令・代執行の規定はない。
- 国土交通省 住宅局「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和5年法律第50号)について」
2023年(令和5年)改正法の専用ページ。冒頭で施行日を明記している。
適用範囲:全国。2023年改正法の専用ページ。/確認日 2026-09-29
注意:施行日と改正法の番号を確認するためのページで、「管理不全空家等が加わった」という改正内容そのものはこのページ本文には書かれていない。施行日の根拠としてのみ使い、制度の中身の根拠には概要資料かガイドラインを使うこと。
- 総務省・国土交通省(告示)「空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針(平成27年総務省・国土交通省告示第1号)」
所有者等が行うべき空家等の管理の内容として、保安上危険の防止(倒壊・落下・飛散の防止)と生活環境の保全(立木等による破損・通行障害等の防止)を項目別に示す。立木については27〜29ページに記載がある。
適用範囲:全国。最終改正 令和8年9月3日。全32ページ。/確認日 2026-09-29
注意:挙がっているのは点検対象となる事象と考えられる対応であって、義務の内容や頻度を数値で定めたものではない(「定期的に」とあるだけで何か月ごととは書かれていない)。対象は空家法上の空家等であり、人が住んでいる家の庭木を直接の対象にしたものではない。この指針に即した管理をしていないことが、直ちに管理不全空家等に該当することを意味するわけでもない。
